あることに気がついたのは、7月のことだった。
オタク属性の男たちと話していた時、秋葉原はよく行くが、メイドカフェに行ったことはない、ということが話題にあがった。しかし異常独身男性の集まりからすると、誰も足を踏み入れる「行動」を起こすハードルが非常に高いのもまた事実。
さてどうするか。
とりあえずほしいものは有識者の意見。
ということで、ドップリその趣味に浸っている後輩の女の子に相談したところ、連れてってくれるとのことだったので、どんなものかを体験すべく、はるばる長野から新幹線で駆けつけたのである。
夏晴れの長野駅
新幹線でものの1時間ちょっとで着くのだから、長野は庭。お散歩レベルです。
新幹線に乗ってすぐ後輩からLINEが。
「E-PARKをとってください!」
なんそれ。
飲食店等の順番待ちをするため?のアプリらしい。1人1つ出してないとダメらしい。単射か?
あ、充電。上野までするか。
新幹線を降りて激長エスカレータを登って円運動電車に格納されて数年ぶりの秋葉原。
アホみたいには多くないけど人が多い。
人混み苦手オタクなのでどうなることかと思いながら後輩と合流し、連れられるがままにドンキホーテへ。
なんだこの外装は。
初見の感想はこれだった。
よくわからなかったので写真は撮っていない。
しかしまぁ……こんな外装じゃハードル高く感じたのも当然だわな。
順番待ちの列に並びながら、説明のボードを穴が開くほどじっくり読んだ。が、ここでも更に困惑する。
お店ではなくお屋敷、お家賃と食材費、オムライスだけじゃなく飲み物にもお絵描き、ご来店なのに「お帰りなさい」……?
後輩曰く「コンセプト」なのだという。千葉なのに東京を名乗る遊園地に行った感覚を思い出した。そう言われたら納得できるかもしれない。
目線を上げると入口付近でせわしなく動くメイドさんたちの姿が。やーこの時間忙しいですよねって謎に思ってしまった。飲食やってたせいだ。にしてもこれがメイドさんかぁ……と思っていたら口に出ていたらしく、後輩に笑われた。
さていよいよ順番が来て店内へ。ベルを鳴らしてメイドさんがお出迎えをしてくれる。
「ご主人様、お嬢様のご帰宅です!
お帰りなさいませ、ご主人様、お嬢様!」
……俺今どんな顔すべき?
だいぶ迷った。正直迷った。その結果、コンセプトに則してご主人様らしい顔をした方がいいと思った記憶はある。できたかは知らん。
椅子が高めの2人席に通される。
メイドさんが自己紹介をして丁寧に説明をしてくれる。こちらも名乗る流れ?名刺交換と同じ?とか思ってたら衝撃の一言がメイドさんから出てきた。
「ご主人様がお屋敷の中で呼ばれるお名前を決めていただきたいのですが、お決まりでしょうか?」
決まっとるわけなかろうよ
後輩にそれとなく聞いていたけど決まってなかった。過去に連行されたご主人様はふわふわきゅあきゅあかわいい名前をつけられたらしい。
まあ俺もそんなんで良いかなぁ〜なんて思っていたら、メイドさんが更に衝撃の一言。
「こちらのご主人様、何度も繰り返しご帰宅されるような気がしますので、真面目に考えられた方がよろしいかもしれません。」
……今なんて言った?何度もご帰宅する?限界異常独身男性をこれ以上極めろと?呆気に取られてしまった。横で後輩が「なるほど!賢いメイドさんだ〜」なんてぬかしよって。お前ちょっと黙っとれよ……。
と言うわけで当時呼ばれていた中でも愛称に近いものをそのまま名前にしていただいた。これが今の名前の由来である。
認定証の裏に名前を書いてもらい、メニューの説明を受ける。あちゅあちゅのお飲み物、あいちゅのお飲み物、ぴぴよぴよぴよぴよこさんライス……噛みそう。
初めてということであいちゅモカラテとぴぴよぴよぴよぴよこさんライスとチェキのセットを注文。チェキをどのメイドさんと撮るかを聞かれ、チェキボードをお借りして、その中から決めさせていただいた。男性諸君ならお分かりいただけるであろう、あの感覚を久々に味わった。どんなことになるんだ……と思いながら後輩と世間話をして待つ。
数分後、絵が描かれていないあいちゅモカラテが運ばれてきた。なんでも描けるというので得意な絵を描いていただく。
かわいい。
かわいいのですよ。猫様は。
とはいえこれが萌えか……?
え、どこにストローさすん?
いやよく描けるよな、すげぇ……
メイドさん最強じゃん?
思わずはしゃいでしまった。
その後、ぴぴよぴよぴよぴよこさんライスが到着。まずナイフを使って卵を割るのだ。ちょっと前にInstagramを賑わせたあの感じである。
パッカーン
脳裏にチキチキオムライスがよぎる。アレより遥かに安価だけどね。
そしていよいよケチャップを使ったお絵描き。
「私スティッチが得意なんですよ〜」と言うので描いてもらう。まあケチャップだしなぁ……
え……はぇ?マジか?やべぇな。
超上手じゃん……ええ……反則やん。
これをさ、崩して食べる方の身にもなってくれよ、ここまで上手いと難しい、、、
とはいえ食べなければどうしようもない。ありがたくいただくことにした。スティッチの攻略を迷っていたときに、ステージ上から「お写真撮影でお待ちの〜」と、先ほどチェキボードから指名したメイドさんに名前を呼ばれた。
当然のことであるがこの時点で既に脳内は「メイドさんかわいい。萌え。」以外のことを考えられていない。普段写真は撮るが被写体になることが少ない自分をどうしたものかと考えていたが、ステージ上のメイドさんに悩みと緊張を解いていただく。
撮影が終わり、席に戻ってスティッチに大謝罪しながら食事をしていると、先程撮ってくれたメイドさんがお絵描きをして持ってきてくれた。
被写体として右半分の自分のところは終わっているも同然なので隠させていただいた。日付の0がハートマークになっているだけでなく、メイドさんの名前の部分にもハートマークがあしらわれている点も萌えポイントが高いといえる(らしい?)。店舗名と中央に書かれる「萌え」の文字はブロンズご主人様仕様とのこと。配色等も含めて綺麗に描いていただいた。これが人生初のチェキである。
その後チェキを撮ってくれたゆのんさんと少しお話をした。どうしてご帰宅したのか、桜並木が綺麗なお話、書道をやってて達筆なお話など……
話すという行為を人間が行なっているときには時間の経過感覚を忘れる傾向があるが、加えてお屋敷の中には時計が存在しないため、さらにあっという間に時間が経ったような気がした。
お家賃を納めてメイドさんに見送られお屋敷の外へ。
「いってらっしゃいませ、ご主人様お嬢様!」
1時間ほど違う世界にいたような感覚になった。後輩を駅まで送り届け、帰路の車内で同期たちに成果報告を実施。ここで報告したことにより、このあと幾度となくご帰宅することになるとは、まだこの時には知る由もなかったのである。
お出迎え:ちさほい さん(本4)
お絵描き:えまちぃ さん(ド)